石叫■         「テディ・マツモト」そのA

翌日、『ラーチモント・デイリー・タイムズ』にテディへの手紙が載った。
テディが大きくなって活字が読める年になったら読んで欲しい。でも今はお母さんの慰めで気を
取り直してくれという内容であった。

『テディ、私たちは本当にすまなく思っている。だから一生懸命に働いて手直しをした。
雑草もなく、もとの苗床のようにキチンと土を盛り上げたんだ。その畑はこの春から君と
君のお母さんとが一生懸命に働いて作り上げたものだからね。その畑に誰かがこっそりと入って
きて、それを台無しにしてしまったけれど、それは君のお父さんが世界平和を訴えることに
よって日本政府からひどい仕打ちを受けているなんて知らないからだよ。
それに君はアメリカ市民なんだ。

4年前にこのアメリカで生まれたからなんだよ。この国は自由にあふれ、勇気みなぎる地だよ。
この二つの言葉が大切だ。君は自由にどこに住んでも良いんだ。でも、その勇気だけど、それは
真のアメリカ人でない少数の人々との出会いに耐えるということだよ。その少数の人々とは君の
畑を荒らした人たちのことだ。君が大きくなった時に、お母さんの言った言葉を決して忘れては
いけないよ。それは人を憎まない、ということだ。というのも、その君の畑を荒らした人は、
何をしているのか分かってはいないんだ。これは大昔にあるクリスチャンが不当な苦しみを
受けた時に言った言葉だけどね(そのまま引用)。

だから君が大きくなった時、本当のアメリカ人になりたかったら、あるいはクリスチャンに
なりたかったら、君のお母さんのようになって欲しい。
それにもう一つ覚えていて欲しいことは、この世界には君と同じような悲劇が方々に起こって
いるという事実だ。それは教会に、学校に、家庭に、そして政府の中にだ。

誰でもどこでも年代を超えて、愛という食物を植えようとする時、忍耐を植えようとする時、
あるいはお互いの理解を深めようとする時に、この種の事件はいつでも起こってきたことなんだ。
でも人々はそれにもめげずにそれらの食物を植え続けてきたんだよ。

だから、テディ、また野菜を植えようよ。それによってやがては豊かな実を結ぶことに
なるのだからね』」。

ここに勇気とある。それは人を憎まず、不本意な出会いに耐えることだという。
主イエスは十字架の上で、「父よ、彼らをおゆるしください」(ルカ23:34)と叫んでいるが、
それは私たち人類への最大の愛の配慮であり、また父なる神への信頼から来たものであった。

本来はそれを勇気と言うのであろう。