石叫■           「ジョンブル精神」

今年の『文芸春秋』四月号に平沼赳夫という衆議院議員のコラムが載っていた。
国を超えた人道精神は、いつの時代も聴く者の心を魅了するという内容だ。

「昭和17年2月、ジャワ島北方のスラバヤ沖で日本帝国海軍は英米蘭の連合艦隊と交戦、
戦艦50隻のうち11隻を撃沈した。救命ボートにつかまり一昼夜、漂流していた英海軍の
乗組員を発見した駆逐艦「雷(いかずち)」の工藤俊作艦長は四百二十二人の命を救った。
そのうちの一人、英国駆逐艦「エンカウンター」の砲撃士官だったサムエル・フォール卿が
昨年12月に来日した…彼は平成十年、天皇陛下の訪英に英国国内で反対運動が起きると、
『タイムズ』紙に自らの体験を寄稿し、沈静化に一役買った。
工藤氏の他界の報を聞いたフォール卿は来日したが、やっとのことで工藤氏の消息を
つかむことが出来、彼の顕彰式典に列席する。

そこで「雷」の航海長だった谷川清澄氏が以下のように語った。
『我々は海軍軍人として当たり前のことをしただけです。だから工藤艦長も私も誰にも
言わなかった。英海軍も立派だった。縄ばしごを降ろしても誰も上がって来ない。
後で聞くと、上官の命令があるまで待つのは当然だという。さすがジョンブル精神でした』。

一方、工藤氏の墓前で万感の思いで『サンキュー』と呟いたフォール卿は、こんな思い出を
披露してくれた。

「最初、日本の駆逐艦が現れた時には銃撃されるのではないかと恐怖を覚えました。
ところが、駆逐艦は救難活動中の信号旗をマストに掲げた。困っている人がいれば、
それが敵であっても全力で救う。それが日本の誇り高き武士道だと認識した瞬間でした。
工藤艦長は救助した我々を甲板に集めると、英語でスピーチしました。
『諸君は勇敢に戦われた。今や諸君はインペリアル・ネイビーの名誉あるゲストである』。
当時のスラバヤ海域は敵潜水艦の魚雷攻撃を受ける危険が高かった。
実際そうした被害もしばしば報告されていた、そんな海域で工藤艦長は
『最後の一人まで見逃すな』と命じ、「雷」の乗組員150名の総力を挙げて救助にあたった。
中には海に飛び込み、力尽きた敵兵を抱え上げた者もいた」。

 実は主イエスこそ滅亡の危機にある十字架上で、息絶え絶えになりながらも自分を殺す
者のために「父よ、彼らをおゆるしください、彼らは何をしているのか、わからずに
いるのです」(ルカ23:34)と叫んで、彼らの救いを祈られたのだった。

この言葉が世界を変え、敵の心をも開いたのである。
ジョンブル精神が私たちを感動させるように、敵をも愛する精神こそ人類の宝である。