石叫■ 「賀川豊彦」
日本を代表するクリスチャンの一人としてわが賀川豊彦がいる。
世界的に多くの労働者に共鳴を与え、世界の歴史からキリスト教世界の目指すところを
しっかりと見据え、神の愛を実践する行動力において賀川の右に出る者はいない。
以下は賀川氏のご長男・純基氏の言葉である。
「ヨーロッパの人たちが幾度か賀川をノーベル平和賞の候補としたのは、単なる平和主義者と
してではなく、平和を実現するためにどういう政治体制が必要なのか、どのような経済改革を
しなければならいのかを終生考え続けた功績に対する評価だった。
シューマンというフランス人がいる。彼は1951年当時のフランスの外相で、フランスが
占領していたルール地方の鉄鋼、石炭産業をドイツに返還して国際機関に統治させるよう
提案した。 このヨーロッパ石炭鉄鋼共同体条約が後のEC(欧州経済協同体)に、
そして現在のEU(欧州連合)に発展する。
1978年にECのコロンボ議長(イタリア外相)が日本にやってきた時、賀川豊彦が提唱した
Brotherhood Economics(兄弟愛経済)という概念がECの設立理念の一つとなった。
これは当時のEC日本代表部が発行した広報資料にも掲載されている。
この兄弟愛経済は1935年アメリカのロチェスター大学から講演するよう要請され、
アメリカに渡る船中で構想を練った『キリスト教兄弟愛と経済構造』という講演で初めて
明らかにした。 その内容はまず資本主義社会の悲哀について述べ、唯物経済学つまり社会主義に
ついてもその暴力性をもって無能と否定した。その400年前、ジュネーブのカルバンこそが、
当時、台頭していた商工業者たちにそれまでのキリスト教社会が否定していた利益追求を容認し、
キリスト教世界に改革をもたらした存在だったが、カルバンの容認した利益追求が資本主義を
培い、極度の貧富の差を生み出し、その反動としての社会主義が生まれた。
賀川豊彦が唱えた兄弟愛経済こそは資本主義と社会主義を止揚(合体し、更により良く)する
新たな概念として西洋社会に映ったのだと思う」。
驚くも何も賀川豊彦がEUの理念と関係していたとは! 彼がいかに人類の歴史に通じ、
聖書の世界に通じていたかが分かる。
聖書は「時は満ちた。神の国は近づいた。悔い改めて福音を信ぜよ」(マルコ1:15)と語る。
この「神の国」は聖書が一貫して語る屋台骨であり、賀川が終生叫び続けた人類の目標でもあった。
世界の労働者と手を組んで闘った者にして初めて見えたヴィジョンであった。
この「神の国」建設が私たち全てのクリスチャンの使命だと知る時、私たちの教団も、日本伝道の
将来も何か見えて来るというものである。