◎石叫■       「ヨセミテ・ハーフドーム」そのA

 今回のヨセミテ・キャンプの目玉は二六九三メートルのハーフドームへのチャレンジだ。
ヨセミテ・ヴァレーに面して一番高いハーフドームは、そこでハイキングをする者にとっては
垂涎の的なのだ。僕は八年ほど前に息子ともう一人の友人と三人でチャレンジしている。
それをアタックすることなくしてヨセミテは語れないと言う気負いからでもあった。でも、
それは日帰りだったので、気の遠くなるような疲労との闘いでもあった。

それだけに昨年来、ロサンゼルス教会の博美さんは、事ある毎にハーフドームに登りたいと
言い続けてきたのだったが、実際それが出来るとは半信半疑であった。というよりも、
むしろそれは不可能だと思っていた。それは体力のある若者でも十時間から十二時間も要する
最も難易度の高いコースであるだけに、六十も半ばに達する者にして、体力的にそれが可能なものかと
やはり考え込んでしまうのだ。特に山頂付近の二百メートルほどのケーブルの張られた四五度近い
花崗岩の急斜面は、それまでの半日にも及ぶ登攀の疲労のきわみの中でそれを目にした時に、
体力と腕力に自信がない限り、ほとんどの者はビビッテしまうであろうと思うからだ、実際に、
その斜面を目前にして登らない若人も少なからずいるのだから。

でも彼女がそれを僕に言い続けてきたのには理由があった。この三年間、ヨセミテ・キャンプに
毎回参加してきて、ハイキングの楽しさと喜びを知らされてきた彼女にとって、ハーフドームに
登ったという人が、「やったよ、ハーフドーム!」というサインのTシャツを着ているのを見たり、
それにまつわる証しを聞いたり、何よりも自分の息子たちがそれにチャレンジしたという話を聞くにつれて、
自分もやってみたいという思いが募りに募っていたのである。もう博美さんの心には、ハーフドーム
しかなかったのである。それが彼女の夢となっていた。そして彼女はその執念に燃えていた。

 そこで最初のプランはその計画を確実なものにするために、二日かけて登る準備をしていたのだった。
前もって予約しておけば良かったのだが、現地でも簡単に取れると思っていた途上の一泊滞在のパーミットが
ヴァレ―のレンジャー・ステーションでは取れず、結局一日行程で行くことになってしまったのだった。
日帰りだと登山許可(ウィルダーネス・パーミット)は要らないからだ。
実際それしかチョイスがなかったのだった。